Ochikubo-15

このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。

取り上げる作品は、『落窪おちくぼ物語』です。

西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。

小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。

ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。

(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)

 

このサイトで主に使用する辞書・書籍

『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)

『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)

『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)

『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)

 

なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。

https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt

 

まず今回のあらすじを紹介いたします。

その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。

今回のあらすじ

常ならはばかり休まれるおちくぼ姫様も、誰に聞かれることもないと心ゆるみて亡き母上様に教わったお琴をつまびきかなで誰でも思わず聞きほれるようなたえなる音を響かせていらっしゃいました。これに気づいた帯刀が「すてきだな。その話は聞いてないぞ、俺は」と妻のあこきに言うと、「そう。おひきになられるのよ。六つの頃から御母上様が御自らご指南されたの」と語り合っているところへ、人目につかないよう用心した右近の少将が中納言邸へ押しかけてきました。少将は従者を帯刀のもとに行かせて、「帯刀殿におりいって聞かせるべき話がある。お取次ぎ願いたい」とのお召しに帯刀は右近の少将様が来られたのだなと勘づいて、参ったな、マジかよ、今夜はないものと思っていたからなあ、とあわてて「すぐに参ります」と返事をして、急ぎ身なりを整えあこきを残して少将を出迎えに行きました。一人になったあこきは、ならば私は姫様のもとにと夫にかまわず様子をうかがいに出ていきました。
右近の少将は開口一番、「どうだ、首尾は。降りしきる雨をいとわず、姫会いたさに参ったのだ。なんとしても会わせろよ」と強引で、困った帯刀は、「先にお越しになるならなると仰ってください。いきなりはご勘弁いただきたく。姫様のご意向もございますでしょうし。今夜は難しいかと」と伝えると、「かたいことを言うな」と少将はなだめるように帯刀の身体に軽くふれてきたので、「とりあえず、お入りになられますか」と帯刀は応じて少将を中へ案内しました。乗って来られた牛車は夜明け前に戻ってくるよう言い渡して帰らせました。
帯刀は使用人に割り当てられた部屋の引き戸の前で少将に邸や姫様の様子などを説明しましたが、皆ではらっていないのを幸いに右近の少将ははやる気持ちをおさえられないのか、「それより姫の部屋をのぞかせろ」と帯刀をせきたてると、「いや、それは。あせってふたをあけてみたらぎょっとなった、などとならないともかぎりませんよ」と少将の暴走を止めようとするも、「雨が降る中わざわざ見に行ってみたらあまりの醜さに雨よけの笠もかぶらず逃げ帰ったという物語のごとくか」と茶化してまじめに聞こうとしません。

 

[今回の古語]

ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。

「右近の少将は開口一番、「どうだ、首尾は。降りしきる雨をいとわず、姫会いたさに参ったのだ。なんとしても会わせろよ」と強引で、困った帯刀は、「先にお越しになるならなると仰ってください。いきなりはご勘弁いただきたく。姫様のご意向もございますでしょうし。今夜は難しいかと」と伝えると、「かたいことを言うな」と」という箇所の古語を取り上げます。

「少将、「いかに。かかる雨に来たるを、いたづらにて帰すな」と宣へば、帯刀「まづ御消息を賜はせて。音なくてもおはしけるかな。人の御心も知らず、いとかたきことにぞはべる」と申せば、少将、「いといたくなすぐだちそ」とて、」

いたづら
せっかくの価値が生かされず、また努力に見合った結果が得られずに、むだである、役に立たない、かいがない、むなしい、と感じるさまを表す
①役に立たない・むだである・無益である②かいがない・むなしい③場所が空いているさま・何もない④ひまである・することがない
「いたづらになる」=死ぬ

消息
①手紙・便り・伝言②訪問すること・来意を告げること・取り次ぎをたのむこと

賜はす=お与えになる・くださる

音(おと)=①耳に聞こえる響きや音響・物音②(「音に聞く」などの形で)評判・うわさ③便り・音沙汰
(参考)音(ね)=おと・声・とくに、人の泣く声

かたし(←かたき)
しっかりしていて動かず、ゆるみなく、すきまがないことから、はいりこめない・(事が)なし難い・困難である
①容易でない・むずかしい②めったにない・まれである

すぐだち=すぐ+だち
すぐ(直)=①まっすぐである②正直である・実直である③ありのままである
だち→
(人・ものが)たつ=①起立する・立つ・立ちどまる②(座っていたものが)立ち上がる・起き上がる③(植物が)生える・生えている④(乗り物などが)置いてある・とまっている⑤(地位に)つく⑥位置を占める⑦(霧・霞・雲・煙・風・波などが)生じる・起こる⑧(月・虹などが)現れる⑨(音が)ひびく⑩(評判やうわさなどが)ひろがる・知れわたる⑪(「腹立つ」の形で)怒る⑫(年月や季節などが)はじまる⑬(時が)経過する・過ぎる⑭立ち退く・立ち去る⑮出発する・旅立つ⑯(鳥などが)飛び立つ・飛び去る⑰役に立つ⑱(刃物などが)よく切れる⑲とくに○○する・さかんに○○する・ひどく○○する
(人・ものを)たつ=①設ける・設置する②(「名を立つ」の形で)知れわたるようになる・評判を高める③立たせる・立ちどまらせる④(座ったりしていたものを)立ち上がらせる⑤(道具や乗り物などを)置く・うえる・とめる⑥(地位や位置に)つける・つかせる⑦(刃物などを)刺す⑧(門や戸を)閉める⑨(建物を)建てる⑩(霞・煙・風・波などを)生じさせる・起こす⑪(声や音などを)出す・ひびかせる⑫(評判やうわさなどを)たてる・知れわたるようにする・評判を高める⑬(誓いや願いを)たてる⑭(湯や茶を)沸かす・入れる⑮(「腹立つ」の形で)怒らせる・腹をたてさせる⑯(時を)経過させる・過ごす⑰出発させる・旅立たせる・遣わす⑱(鳥を)飛び立たせる⑲(生活や名誉を)保たせる・維持させる⑳(目や耳などの感覚器官を)働かせる・とめる㉑思いをおし通す・あくまで貫く㉒ひどく○○する・しきりに○○する・とくに○○する

なすぐだちそ=な+すぐ+だち+そ=どうか○○してくれるな+まっすぐで正直であること+とくに○○する・さかんに○○する・ひどく○○する+(どうか○○してくれるな)

 

平安文化のあれこれ

おちくぼ姫の琴の音は、もしかしたら姫の心の美しさがそのまま音になっているのでしょうか。お琴は平安時代の貴族社会では女性の教養とかたしなみとされていたようなので、北の方も弾いたのでしょうか。半端ない意地の悪さが個性と言ってもいいような北の方が出す音色ってどんななんでしょうかね。心のあり方と、その心から生まれてくるものは、もしかしたら同じものなんでしょうか。おちくぼ姫は縫い物もとても上手のようですよね。それも、姫の心の清らかさが縫い目になって表れているのでしょうか。なら、きっと、お習字(書道)も姫はとってもきれいな字を書くのではないでしょうか。字は特に人柄が表れるとも言うでしょうか。結局、すべて心から始まるなら、姫は何をやっても素敵になるんじゃあないでしょうか。そうすると、北の方なんかはその真逆なんでしょうか。どんな字を書くんでしょうね。お裁縫はそもそもすることなんてあるんでしょうか。姫は見た目も良いみたいですけれど、それ以上に姫の良さは、人柄とかその中身ですかね。父親の中納言は親心から姫の身なりのことをありのまま悪く言ったのでしょうけれど、もしかしたら父親なのに、姫の本当の良さをわかっていないということはありませんかね。お父さんの(心ない)言葉に姫は恥じ入ってしまっていたようでしたけど、どうせなら、お前の心はどんな晴れやかな華やかな装いにもまさると、誇りに思えと、褒めてあげてほしかった気もしませんか。やっぱり姫は、あこきの言う通り、このまま落ち窪んだ一間に押し込められて終わってしまうなんて、もったいなさすぎますね。

 

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。次回もまたぜひお付き合いいただけましたら何よりです。またこのページの最後に掲載いたします英語版(有料)もぜひお読みいただけませんでしょうか。あわせてお心付けもお願いできましたらありがたく存じます。

 

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Ochikubo-Hime (Princess Ochikubo)

In the empty house, Princess Ochikubo, who always keeps quiet with concern for people around, has loosened up and played the Japanese harp which her late mother gave lessons for. Her sweet sound rings that catches and charms anyone. Tachiwaki is also attracted; “How so talented! You’ve never told it, haven’t you?" “Haven’t I? One of her specialties. Her mother personally taught how to play it since she was about six years old," said Akoki. While Tachiwaki is absorbed in talking with his wife, his master has come to the house of Chunagon without advance notice, paying caution not to draw public attention. Ukon’no Shoushou has had his man call Tachiwaki; “Is Mr. Tachiwaki here? For business. Your favor would be appreciated." This call prompted Tachiwaki to deal with his master in haste, being stuck, saying to himself, “Has he really come? I thought he would not come tonight." He gave a prompt reply that he would come at once and hurriedly changed his clothes and left Akoki for Ukon’no Shoushou. No reason for being alone, Akoki also left for Princess Ochikubo, not minding her husband.
First of all Ukon’no Shoushou said, “Does all go well? Through the pouring rain, I came here to meet my Princess. You get me to meet her." His high-handed forcible way placed his loyal man in a difficult situation. “Please tell me you’re coming before you come. I cannot cope with such an abrupt call. Princess Ochikubo also should have a choice. I suppose tonight will not be the time," said Tachiwaki. “Don’t be rigid, my brother," said Ukon’no Shoushou, trying to cajole his capable man, patting Tachiwaki. Yielding to his demand, the faithful servant said, “Anyway, please come in," and led him inside. The carriage with one ox of Ukon’no Shoushou was ordered to come again before dawn.
In front of the sliding door of the place allotted to servants, Tachiwaki explained the states of the house and the Princess to Ukon’no Shoushou. But the would-be Prince seemingly will not restrain his eagerness and excitment as no other people are there and presses his man to guide him to the place of Princess Ochikubo so that he can look in and see the Princess. “Keep cool, please. People says you open the box too soon and you will regret. You are not an exception, either," said, dissuading him from a reckless attempt. “You mean the story that a man takes the trouble to go and see a woman in his heart against the rain but only finds such ugliness as he has never expected of her, ending in a dash leaving his hat for protection from rain," said the pushy lord, turning the serious advice into a joke.


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