Ochikubo-8
このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。
取り上げる作品は、『落窪物語』です。
西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。
小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。
ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。
(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)
このサイトで主に使用する辞書・書籍
『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)
『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)
『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)
『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)
なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。
(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt)
まず今回のあらすじを紹介いたします。
その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。
今回のあらすじ
姫様が手に取ることもなさらない右近の少将の文をあこきが灯にかざして見ると、和歌が一首書かれているだけでした――姫様のお話をうかがい、お会いしたこともないのに心ひかれ、恋に悩める私です――「まあ、達筆だこと」と姫様に聞こえるようにあこきがつぶやいても、興味を示されるご様子もないので、仕方なくその文を元のように巻いて姫様の髪のくしなどを入れる箱にしまい、あこきは自室に戻りました。
さっそく「どんな案配だ。読んでいただけたか」と帯刀がたずねると、「そうねえ。何もお答えにならなかったのでお文は置いてきたわ」と伝えたら、「なんでだろ、今の地獄よりずっと良くないか。俺たちにとっても望ましいしさ」という帯刀の言葉に、「そうかもねえ。右近の少将様のお気持ちがねえ、あてになるのであればねえ、お返事もお考えになられるかしらねえ」とあこきも夫と同じ思いのようです。
次の日の朝、おちくぼ姫の父上様が用足しに行かれたついでに娘の部屋をのぞいてそのご様子を見られると、貧相な姿ではあったけれど、長い髪がとても綺麗になびいており、さすがに愛おしさをお感じになったのでしょうか、「そのなりはみっともないぞ。気にはかけておるのだがな、北の姫らに手がかかってな、どうしているのかわからぬのだ。良い人がいれば、好きにするがよい。こんなありさまは見ていられぬ」とおっしゃったら、姫様はきまりが悪くてだまりこんでしまわれました。
[今回の古語]
ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。
「次の日の朝、おちくぼ姫の父上様が用足しに行かれたついでに娘の部屋をのぞいてそのご様子を見られると、貧相な姿ではあったけれど、長い髪がとても綺麗になびいており、さすがに愛おしさをお感じになったのでしょうか」という箇所の古語を取り上げます。
「つとめて、おとど、樋殿におはしけるを、落窪さしのぞいて見たまへば、なりのいと悪しくて、さすがに髪のいとうつくしげにてかかりてゐたるを、あはれとや見たまひけむ」
つとめて
①早朝 ②翌朝・翌早朝
おとど
ここでは、おちくぼ姫のお父上である中納言を指すのではないでしょうか。
おはす
いらっしゃる・おいでになる
⇒おはしける=いらっしゃった・おいでになった
見たまふ
見ることをなさる・ご覧になる
なり
①かたち・形状 ②身なり・服装
悪し
絶対的・本質的に悪い状態⇒①悪い・いけない ②(性質・状態が)不快だ・不都合だ・憎い ③(気分・体調が)悪い・すぐれない ④(天候・性格などが)荒々しい・暴虚だ ⑤(容姿・ようすなどが)みにくい・みっともない・みすぼらしい ⑥(身分が)卑しい・低い・(経済的に)貧しい ⑦(技術などが)へただ・まずい
⇒いと悪しく=たいそうみすぼらしい
さすがに
そうはいってもやはり・それでもやはり
うつくし
目下の者・小さいもの・弱いものに対する愛情⇒①(人に対して)いとしい・恋しい・かわいい ②(人でないもの)美しい・りっぱだ・見事だ・すぐれている
①⇒③かわいらしい・愛らしく美しい
⇒いとうつくしげ=いかにもひじょうに美しいさまである
ゐる
一つのところにじっとしている⇒①座る ②(鳥・虫が)とまる ③(植物などが)生ずる ④(「腹がゐる」の形で)怒りなどがおさまる ⑤ずっと○○(し)ている
①⇒⑥位に就く
⇒ゐたる=ずっと(かかっ)ている状態である
あはれとや
かわいそうだ・気の毒だ・いとしいというのだろうか
見たまひけむ
見ることをなさったのだろう・ご覧になられたのだろう・思われたのだろう
平安文化のあれこれ
どうやらあこきは夫の帯刀を信用してのことなのか、右近の少将とおちくぼ姫の仲を取り持つ気があるようではないでしょうか。どうなるにしても今よりはマシだという思いもあるのでしょうか。ところで帯刀の言葉で「我等がためにも思ふやうにて」とあるようですが、これはそれぞれの主君(主人)同士が結婚するのはその家臣・下臣(侍女)にとっても都合が良かったのでしょうか。あこきと帯刀は(すでに)夫婦で、おちくぼ姫のことはあこきから帯刀に身近な女房にしかわからないことまで伝えることができ、逆に右近の少将のことは帯刀からあこきに幼い頃から生活を共にし兄弟同然で育ってきた乳兄弟にしかわからないことを伝えられ、そうした意味でも信頼性の高い情報に基づいた良縁と言えたのでしょうか。まあ気心が知れている大切な近しい人の幸せを思い、この人なら良いのでは、大丈夫だろう、という相手を互いに紹介し合って、身元も確かでその保証人(紹介者)も安心できる、これは良縁ではないか、という感じでしょうか。もしかしたら、実際縁付いて結婚した後も、何かあれば、それぞれに紹介した者同士(つまりあこきと帯刀の夫婦)の間で、必要に応じてフォローするとかカバーするとか、そうした意味合いでも都合が良かったのでしょうか。もしかしたら、あこきと帯刀がそれぞれに主人と主君のために動きやすいという意味で好都合だと帯刀は言っているのかもしれません。決して帯刀の利益とか利便性という意味ではないのではないでしょうか。
前回まではいくつかの古語を取り上げてきましたが、今回は一文全部を見てみるという挑戦をしてみました。どうでしたでしょうか? 存在感の薄くて弱そうな、おちくぼ姫のお父さんが珍しく登場している箇所です。意地悪な継母に、あまりの辛さにうち沈み闇から抜け出せない悲劇の姫、頭がよく目はしも効き行動力もある腹心の侍女とその夫、そうした中で一人、間が抜けているというか、読者の肩の力が思わず抜けてしまうようなキャラなのが、このお父さんでしょうか。北の方やあこきに帯刀、おちくぼ姫の登場する場面では、どこか緊張感が漂うように思われますが、このお父さんが出てくるだけで、なんだよお前は、と読んでいる側の気持ちがゆるむというか、構えたものがほろっと崩れるというか、よく言えばリラックス効果があるでしょうか。もしかしたら、だからこそたまに登場することに意味があり、それで十分なのかもしれませんね。
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Princess Ochikubo would not take the letter from Ukon’no Shoushou, which Akoki opened under the paper candle light; only the traditional Japanese poem was written. It says, “Dear Princess, your heart-breaking story has caught my heart; I cannot forget abou you and I only wish to see you." Although Akoki praised his writing, pretending to talk to herself, the Princess still would not show any interest in it. Unable to do anything more, Akoki put the letter rolled back in the box for combs for the Princess and left.
Upon returning to her place, her husband, Tachiwaki, asked her whether or not the Princess read the letter. “Well, my Princess did not say anything, so I left the letter," said Akoki. “Why? It would be much better than the hell at present. Also we can be of use for them." Tachiwaki’s sincere words seemingly made Akoki share his wish; “Well…. Serious and earnest love for the Princess may reach and move her lost heart."
On the next morning, Father of the Princess looked in at her sunken place on the way back from the nature call; her poor and shabby dress with long hair quite beautifully hanging over her back may have touched even him; apparently having pity on her, he said to the Princess, “Your garment looks worse for wear. I have been concerned about you, but the daughters of the mistress have taken much of my time and trouble. I cannot keep up with your situations. I will admit your decision on any good man as you like. I cannot overlook this plight of you." Nothing came out of the Princess, embarrased, falling silent.
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