Ochikubo-29

このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。

取り上げる作品は、『落窪おちくぼ物語』です。

西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。

小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。

ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。

(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)

 

このサイトで主に使用する辞書・書籍

『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)

『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)

『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)

『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)

 

なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。

(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt)

 

まず今回のあらすじを紹介いたします。

その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。

今回のあらすじ

あこきは和泉の国のおばの厚意にただただ感謝しかありませんでした。これで姫様にも安心して三日目の晩を迎えていただけると思って、その返事を姫にも見せたところ、どうしてお餅がいるのと無邪気な姫に、あこきは笑顔で「姫様はお気になさらずに」と申し上げて流しました。立派なお膳に綺麗なたらいや水を運ぶのに適したひしゃくのついた器、白米の入った大きな食糧袋には紙で仕切られて果物やお菓子、それに鳥や魚貝を干したものもあります。細々と行き届いた品々の数々を受け取り、あこきは姫様に立派な祝いの餅を召し上がっていただけるよう、栗など旬の食べ物も添えて、美しく華やかに盛り付けて準備しました。
後はお餅を待つばかりと万端整ったところへ、また降り出した雨がその勢いを増すばかりです。これではお餅は無理かもしれないと思っていたら、牛や馬は使えなかったと見え、わざわざ歩いておひつを二つ、大きな傘で濡れないようかばいながら届けてくれました。ここまでしてくださるとは、とあこきは感激で涙があふれながらふたを開けると、縁起の良い二種類のお餅の他に、よもぎ餅までそれも二種類も入っています。食べやすくと小さめに丸めてあり、目にも彩りも美しく、おばさまの細やかな心遣いが心にしみます。急なお願いにもかかわらずここまでしてくださって、と感激もひとしおです。手紙も添えてあり、「なにぶんにも限られた時間で急ごしらえなので期待どおりのものとはまいりませんが、お納めください。もっとしてあげたかったのですが。取り急ぎにて」とあります。雨が降りしきる中届けてくれた、その十分なお礼とねぎらいをとあこきは思いましたが、帰りを急ぐというので、慌ただしくかろうじてお酒のもてなしだけは受けてくれました。おばさまには、「もったいない限りです。お礼の申し上げようもございません」とことづけを頼みました。ここまで思ってくださる方が他にいるだろうか、ありがたい限りだとあこきはしみじみ思いながら、ぜひ姫様にと、手近にあったふたに届いたばかりのお餅を入れて差し出しました。
晩になり、雨はやむどころかとても出かけることなどできないほど激しく降っています。右近の少将は帯刀に当然賛成してもらえるだろうという口調で、「今夜は無理だな。仕方がないか」と問いかけると、「本来今夜行かなければ姫様にどんな思いをおさせすることになるかと。されどこの天候ではやむをえないかとも。殿の本意ではないのですから。姫様にお文を書かれては」と応じる帯刀の様は、まずいなあ、これはあこきを怒らせるぞと焦りと動揺が見て取れるほどです。そんな腹心の本心に気づかないのか、右近の少将はお前の言うとおりだなとさっそくおちくぼ姫に宛てた文を書きました。「早くそちらへと思っていたら、雨がひどくなる一方で。私の想いはつゆほども変わってはおりませんから。ないがしろにされたなどと思わないでくださいね」と伝えて理解を求め、あこきにおびえる帯刀も、「すぐそっちに行く。少将様も向かおうとされていたんだけどな、この雨だろ、少将様も本当にがっかりされている」と必死で弁解し、許しを請いました。

 

[今回の古語]

ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。

「後はお餅を待つばかりと万端整ったところへ、また降り出した雨がその勢いを増すばかりです。これではお餅は無理かもしれないと思っていたら、牛や馬は使えなかったと見え、わざわざ歩いておひつを二つ、大きな傘で濡れないようかばいながら届けてくれました。(中略)晩になり、雨はやむどころかとても出かけることなどできないほど激しく降っています。右近の少将は帯刀に当然賛成してもらえるだろうという口調で、「今夜は無理だな。仕方がないか」と問いかけると、」という箇所の古語を取り上げます。

「日やうやう暮るるほどに、少しやみたる雨、降ること限りなし。餅や得ざらむと思ふほどに、男、大傘ささせて、朴の櫃二つおこせたり。(中略)暗うなるままに、雨いとあやにくに、頭さし出づべくもあらず。少将、帯刀に語らひたまふ、「くちをしう、かしこにはえ行くまじかめり。この雨よ」と宣へば、」

日
①太陽・日光②昼・日中③(時間の単位としての)日・一日・一昼夜④時・時期・○○のおり⑤天候・天気・空模様⑥太陽の神としての天照大御神・またその子孫と考えられた天皇や皇子

やうやう
①だんだん・しだいに②そろそろと③やっとのことで・かろうじて

くる
(暮る)①日が暮れる・日が沈んで暗くなる②年や季節などが終わる
(暗る)③目の前が暗くなる・目がくらむ④涙で目が見えなくなる⑤心が乱れ惑う・途方にくれる

やむ
①(動きが)とまる・(つづいていたものが)終わりになる・絶える②中途で終わる・中止になる・起こらないままで終わる③(病気などが)なおる・気持ちがおさまる④死ぬ⑤とめる・終わりにする・やめる⑥(病気などを)なおす

降る
①(雨や雪などが)降る②(比喩的に)涙が流れ落ちる

限りなし
①果てしない・際限がない②程度がはなはだしいこと・この上ない

得
①自分のものにする・手に入れる②得意とする・すぐれる③理解する・悟る④○○することができる⑤○○(することが)できる

ざらむ
①○○ないだろう・○○ないようだ②○○まい

男
①男性②成人した一人前の男子・若い男性③夫・恋人である男④息子⑤出家していない在俗の男⑥召使いの男・下男

さす(←ささ(せて))
①光が射しこむ・直射する・映じる②草木の芽が出る・萌え出る・枝が伸びる③潮が満ちてくる④雲がわき上がる・立ちのぼる⑤指さす・指し示す⑥目ざす・目標とする⑦指定する・限定する・定める⑧任命する・指名する⑨さしかける・かざす⑩設置する・設ける⑪差しのべる

朴
木の名。朴の木。山地に自生し、初夏に芳香ある、淡黄白色の花を開く。材は扇の骨や版木などに、樹皮は染料・薬用となる

櫃
上ぶたのついた大型の木箱。用途や形はさまざま。

おこす
(遣す)(人や物を)こちらによこす・送ってくる

まま
①成り行きに従うこと・そのまま・そのとおり②思うとおり・心のまま③○○したまま④(時間的な経過で)○○につれて⑤(空間的な経過で)○○にしたがって⑥(状況・程度につれて)○○ながら⑦○○するとすぐ・○○するやいなや⑧○○なので

あやにく
意に反するさま⇒①あいにくだ・都合が悪い②意地が悪い・意に反することを行うさま③気持ちや予想に反して事が起こる程度・度合いがはなはだしいようす

頭
①あたま・頭部②頭髪・髪の毛③物の最上の部分・先端④集団の長・首領・親方

差し出づ
①(光が)さしはじめる・(日や月が)輝き出る②分を越えて出すぎる・出しゃばる③人前に出る・外に出る・現れる④差し出す・出す

くちをし
夢や期待が満たされないときに感じる不満・不本意⇒①(期待がはずれて)ひどくがっかりした・残念だ・くやしい②つまらない・もの足りない

かしこ
あそこ・あちら

まじ
①○○ないにちがいない・○○ないだろう・○○ないはずだ・○○そうにない②○○ないつもりだ・○○つもりはない③○○べきでない④○○てはならない・○○ないほうがよい⑤○○できそうにない・○○できないにちがいない


前半はあこきのおばさんが寄越した使いで、こちらは大雨でもちゃんと律儀にお餅を届けてくれたようです(そもそも雨が振っていなくてもお餅がもらえなくても当たり前、どこまでもおばさんの厚意によるもので、にもかかわらず至れり尽くせりのようではないでしょうか)。一方後半は、なんと悲劇のヒロインの王子様になるはずの右近の少将が、あろうことか行かないと言っているようではないでしょうか。なんでしょう、このていたらくぶり。これで本気で姫を救う気あるんでしょうか。さあ、姫はともかく、あこきがどうでしょう。

 

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。次回もまたぜひお付き合いいただけましたら何よりです。またこのページの最後に掲載いたします英語版(有料)もぜひお読みいただけませんでしょうか。あわせてお心付けもお願いできましたらありがたく存じます。

 

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Ochikubo-Hime (Princess Ochikubo)

Akoki was very thankful to her aunt of Izumi Province for her great kindness shown in her reply. Relieved that the Princess would rest assured of the third night with Ukon’no Shoushou, the caring maid and friend shared it with the mistress. The innocent bride asked for what purpose Japanese rice cakes were sent for. The knowledgeable assistant smiled and lightly told the inexperienced lady not to mind it. Beautiful portable tables, lovely basins, containers with a ladle for carrying water, a bag of foods such as polished rice and fruits, sweets and confectionery and dried meat of chicken and fish, shellfish and other seafood, put and divided by sheets of paper in it neat and orderly, and other fine articles enough to welcome the husband were delivered to Akoki. To serve the commemorative rice cakes worthy of the elegant bride, the devoted maid made preparation with chestnuts and other seasonal food added, dishing up splendidly.
All the arrangements except for the rice cakes were made when it began raining again, harder and harder. We might not get the rice cakes, Akoki thought, but two men came walking, one holding two chests and the other putting up a big umbrella, as they seemed not to be able to use oxen or horses. Their delivery significantly touched Akoki in tears, who had not expected such trouble taken for them. Opening the lid, she found two kinds of auspicious classic rice cakes and two kinds of mugwort(yomogi)-flavor rice cakes, each of them rounded small easy to eat, a feast of various colors entertaining their eyes. Tender and thoughtful attention of the generous aunt deeply impressed the niece struggling alone. Her thanks were not enough in words all the more for the tight time limit. The letter attached said, “I am afraid that those things made available in haste will fall below your expectation, but if they help you even a little, I would be glad. I wish that I could have done more and better. May you be happy and best of luck!" To the two men who brought the rice cakes through the heavy rain, Akoki wanted to reward with plenty of allowance and presents; however, they had to hurry back and so only received drinks given in a rush. Lastly she entrusted them with a message to her aunt that the kindness given was more than satisfactory and she could not appreciate enough. I am so lucky to have such aunt; deeply grateful for the blessings, the relieved and pleased maid put the rice cakes just delivered in a lid nearby for her mistress.
The night comes and the rain is pouring so hard as to prevent them from going out. Ukon’no Shoushou said to Tachiwaki, anticipating the agreement, “We can’t go tonight, can we? We can do nothing, can’t we?" Oh my goodness, she should be pissed off; caught in uneasiness and anxiety, the faithful servant said to his easy-going master, “I wonder how the Princess would feel if you don’t go tonight. But considering the weather, I also wonder whether we can go there. You should have been there but for that rain. A letter may be useful to beg her understanding." The dull and insensitive hero, as he was told, wrote a letter to the waiting heroine: “Against my will to go there early, the rain grew heavy. My love for you never changes at all. Please do not mistake it. I always and forever stand by you even if a distance separates us." Also Tachiwaki, frightened of Akoki, desperately explained the conditions and begged for mercy: “I’ll go there now. My master also intended to go there. But the rain foiled him. He’s really disappointed."


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Posted by preciousgraceful-hm