Ochikubo-22
このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。
取り上げる作品は、『落窪物語』です。
西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。
小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。
ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。
(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)
このサイトで主に使用する辞書・書籍
『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)
『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)
『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)
『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)
なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。
(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt)
まず今回のあらすじを紹介いたします。
その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。
今回のあらすじ
「こんな身なりでありえないわ、本気で想っていただけるなんて。それにしても継母上様が知ったらと思うと恐ろしいこと。『勝手なことをすれば追い出すからね』と言われているのに」と北の方におびえるおちくぼ姫に、「それならいっそここをお離れになってはどうですか。いつ追い出されるかとビクビクしながらこのままでいても何も変わらないのではありませんか。姫様、これを好機とも変えていけませんでしょうか。今のままやしきの片隅にとじこめられて寝るひまもないほど次から次へとせきたてられながら縫い物に追われて気づいたらあの世へ、なんて思うつぼにはまらなくてもよいのではないですか」とあこきがもっともらしく理を説いて姫に右近の少将とのことをすすめます。
そこへ「お文のことは」と控えていた使者が口をはさみ、「そうでした、さっ、お文を。こうなっては泣いても始まりません」とあこきが、起き上がれず顔を伏せたままの姫のそばに読めるように置きました。右近の少将は姫に、「思いもよりませんでした。お会いしたら、ますます貴女のことが愛おしくてたまらないのです」とだけ書いており、これを見た姫は「具合が悪くてそれどころではない」とすげなくまた無視されました。
あこきは夫の帯刀に宛てて文をしたためました。「ねえ、あたし、本気で怒ってるからね。なんなのよ、これはいったい。どう考えてもおかしいでしょ。どういうつもりよ、あんたは。ナメてんでしょ、あたしのこと。これであんたの本性わかったから、もうこれっきりね、きっと。姫様がどんなにおつらいか、あんたにわかる? 起きることもできないのよ。どんなに文をよこされてもね、読む気になんかなるわけないでしょ。おいたわしくて見てられないわ。あんたのせいよ」との妻の言葉を帯刀は主君の右近の少将に伝えました。俺じゃないだろ、姫が落ち込んでるのは。着物のことを気にしてるんだろ。かわいそうにな。
[今回の古語]
ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。
「姫様がどんなにおつらいか、あんたにわかる? 起きることもできないのよ。どんなに文をよこされてもね、読む気になんかなるわけないでしょ。(中略)妻の言葉を帯刀は主君の右近の少将に伝えました。俺じゃないだろ、姫が落ち込んでるのは。着物のことを気にしてるんだろ。かわいそうにな。」という箇所の古語を取り上げます。
「御前には、いとなやましげにて、まだ起きさせたまはざめれば、御文もさながらなむ。(中略)少将の君に、「かくなむ」と聞ゆれば、われをいとものしと思はむやは、ただかの衣どもを、いといみじと思ひたりつるなごりならむと、あはれに思す。」
御前
①高貴な人や神仏などの前・おんまえ②貴人、とくに自分の主君などを尊敬していう語③女性、とくに貴人などの妻を敬っていう語④高貴な人の外出の際、騎乗して先導する者・みさきばらい⑤相手の女性を敬意をもって呼ぶ語
なやましげ
気分が悪そうなようす・大儀そうなようす
させたまふ(←させたまは)
①お○○になられる・お○○なされる②お○○させになる・○○させなさる
ざめり(←ざめれ)
○○ないようだ・○○ないようにみえる
さながら
変更を加えないさま⇒①そのまま・もとのまま②(そっくりそのまま)すべて・ことごとく・全部
①→③あたかも・ちょうど・まるで
②→④全然・まったく・いっさい(ない)
ものし
不愉快だ・めざわりだ・気にくわない
なごり
人や物事の過ぎ去ったあとの気分・愛惜⇒①あとに残る気配・余韻・面影/病後の体に残る影響・地震の余震②人との別れののちに、なおも心に残るもの・心残りな人との別れ・惜別の情
①→③故人の代わりに残るもの・遺児・忘れ形見・子孫・遺品④最後・最終⑤連歌・俳諧を書き記す懐紙の最後の一枚
⑥潮が引いたあとに波が残したもの⑦風の凪いだあとも、なお静まらない波
おちくぼ姫が(精神的)ショックが大きくて身動きが取れず寝たままになっているとあこきが夫の帯刀に怒りをぶつけてきたのに対して、右近の少将は姫がそうやって動く気になれないほどメンタルに打撃を受けたのは姫自身の身なりを恥と思ってのことだろうと言っているようです。姫にとって問題なのは右近の少将がどういう人(男性)なのかということではなくて、姫が(誰であれ)人に(ここでは右近の少将に)どう思われただろうか、ということが何よりも重要なのだろう、と右近の少将は姫の心理を推測し分析しているようです。そしてこの右近の少将の考えが当たっていないでしょうか。実際姫は前回その思いをあこきに話していたようではなかったでしょうか(それに対してあこきは右近の少将はきっと北の方のせいだとわかってくれるから気にしなくていいのではと姫に話していたようではなかったでしょうか)。(帯刀もそうですけど)右近の少将も(会いたくてたまらなかったはずの姫に会えたのに)舞い上がることもなく、とても冷静な目というものを持っているようではないでしょうか。
平安文化のあれこれ
右近の少将のメンタルってすごいですね。でも、当たってますかね、少将の推測が。もちろんおちくぼ姫は乱暴なやり方に大きなショックを受けていると思いますが、姫が何よりも一番気にしているのは自分のすり切れてみすぼらしく見えるであろう着物のことでしょうか。そういう女性の心理を的確に見抜いている(かもしれない)右近の少将というのは、やっぱりこういうことに長けているというか、よくわかっているでしょうか。生まれ育ちも身分も(何もかも?)良くて、自分のことを嫌がる女性などこれまでいなかったのか、いるはずがないと自信があるのか、それとも本当にそうなのか。右近の少将は、姫の身なりに惑わされず、ちゃんと姫の人柄とか中身とか、姫の本当の良さをわかってあげているのかもしれません。その上で、少将は実際会ったらもっと貴女のことが好きになったと姫に伝えているのでしょうか。案外、少将は姫に実際会って自分の眼鏡にかなうかどうか確かめたのでしょうか。それで姫は合格となったのでしょうか。身なりなど少将が上等のものを用意してやればそれで済む話でしょうか。平安時代の女性は、ひたすら男性を待つだけのようでしたが、もしかしたら、まず最初の顔合わせは、男性が女性を品定めする、合否を判定する機会でもあったのでしょうか。不合格なら次はない。合格なら次のステップに進むのでしょうか。なんだか女性の無力感が際立ちますかねえ。
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“Look at my clothes! How could anyone find attraction with a shabby-looking one? Let alone true love! But more important is the stepmother; if she knew this mishap… Oh, how horrible! She always says, 'You’ll be thrown away if you break my rule'" said Princess Ochikubo, frightened of Kitanokata. “Then you could get away from here. Nothing will change when you stay; you’ll never get out of the terrifying control of the evil abuser. My dearest Princess, we could make the best of this incident; how about turning into a favorable chance? Do you have to live a life as she tells? Do you really have to keep sewing one after another in a hurry without much sleep confined to the end of this mansion? Do you really want to be just pressed to work and die?" said Akoki, trying to change the Princess’ mind into a relation with Ukon’no Shoushou by possibly right reasoning.
At that timing, the errand waiting demanded the reply. “Right. Please see the letter. It’s no use crying over spilled milk; well, actually you did not spill the milk, but…," said Akoki, placing it beside the Princess so that she could read while she still could not get up, lying on her face. Ukon’no Shoushou wrote only the poem for Princess Ochikubo: “What has happened, as I had not expected, is that I love you much more than I did before I met you." Upon seeing it, the Princess coldly ignored it again, saying “I’m feeling so bad that I should naturally not be able to give a reply."
Akoki wrote a letter to her husband Tachiwaki: “Look! I’m mad at you. What is it? How could you do this reckless attempt? It’s totally outrageous! I’m nothing with you, aren’t I? So you could do such a treachery. Now that you’ve revealed what you really are. We’re through, aren’t we? Do you see how much my Princess suffers? She couldn’t be even up. She should not feel like reading any letters, no matter how many ones are sent. I feel such great pity that I could hardly watch her. It’s you that caused this tragedy. What will you do from now on? How will you make up for it? Huh?" Tachiwaki told it to his master, Ukon’no Shoushou, who only thinks it’s not me that the Princess is depressed with; it’s her clothes that she minds. It’s pitiful.
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