Ochikubo-17

このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。

取り上げる作品は、『落窪おちくぼ物語』です。

西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。

小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。

ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。

(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)

 

このサイトで主に使用する辞書・書籍

『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)

『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)

『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)

『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)

 

なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。

https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt

 

まず今回のあらすじを紹介いたします。

その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。

今回のあらすじ

おちくぼ姫は横にはなってらっしゃいましたが寝てはおらず、そばに置いたお琴に手をかけたまま、「なにもかもがたえがたいなら、すべてを忘れてしまえる岩山の奥に人知れずひそめてはどうかしら」などと一人、誰に話すでもなくつぶやいてらして、すぐにはおやすみになられそうもなかったので、姫の様子をうかがっていた右近の少将は邪魔は入らないだろうと踏んで姫の部屋の格子戸を木ぎれを使って器用に開けて、中へ押して入ったところ、招かれざる侵入者に驚き怖さのあまり身を起こされた姫様をすかさず右近の少将が捕まえてしまわれました。姫様のすぐ隣りの部屋で夫の帯刀と寝ていたあこきも姫様の部屋の格子戸が開けられたのに気づき、何が起きているのかとびっくりしてあわてて動こうとしたら、帯刀が抑えつけて身じろぎもできません。「何よ、行かなきゃ。聞こえたでしょ、格子戸の音。姫様のところよ、見てこなきゃ」とあこきが帯刀に言うと、「犬かな。ねずみかな」と軽くいなして、「さわぐなよ」と止めるので、「知ってるのね、何が起きているのか。あなたのしわざってこと」と問い詰めるも、「なんの話だ。寝るぞ」と言ってあこきをがっちりと抱きおさえて寝ようとするので、「なんてことよ。ああ、情けない。このクズ」とののしるも、大切な姫様の一大事に駆けつけることもままならず、殺意すら覚える憎い敵に力づくで押さえ込まれてどうしようもありませんでした。
右近の少将は姫を捕まえた手を離さずに楽な格好になって横になりました。姫様はもう怖くてやりきれなくて体の震えが止まらずただ泣いてばかりいました。「たいそうお嘆きでいらしたので、私が深く人を想う真心を知っていただこうと、姫様がお望みの奥の岩山を見つけて差し上げます」との言葉に姫様は、ああ、この方はあの、と重ねて文を送って寄こしていた右近の少将の正体にお気づきになられると同時に、ああ、この着物、さぞや見苦しいにちがいないわ、こんなにすり切れほつれてどうしましょう、ああ、もう、消えてしまいたいわ、泡のようにはかなく、消えてしまえばいいのに、わたくしなど、とこの世の終わりとばかりに泣いてらっしゃるお姿に、王子様気取りで意気揚々と乗り込んだ右近の少将もどうしたものかと戸惑い、横になったまま静かに見守ってらっしゃいました。

 

[今回の古語]

ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。

「「何よ、行かなきゃ。聞こえたでしょ、格子戸の音。姫様のところよ、見てこなきゃ」とあこきが帯刀に言うと、「犬かな。ねずみかな」と軽くいなして、「さわぐなよ」と止めるので、「知ってるのね、何が起きているのか。あなたのしわざってこと」と問い詰めるも、「なんの話だ。寝るぞ」と言ってあこきをがっちりと抱きおさえて寝ようとするので、「なんてことよ。ああ、情けない。このクズ」とののしるも、大切な姫様の一大事に駆けつけることもままならず、殺意すら覚える憎い敵に力づくで押さえ込まれてどうしようもありませんでした。」という箇所の古語を取り上げます。

「「こはなぞ。御格子の鳴りつるを、なぞと見む」と言へば、「犬ならむ、鼠ならむ」と「驚きたまひそ」と言へば、「なでふことぞ。したるやうのあれば言ふか」と言へば、「何わざかせむ。寝なむ」と、抱きて臥したれば、「あなわびし。あなうたて」と、いとほしくて、腹立てど、動きもせず、抱きこめられて、かひもなし」

なぞ
①何か・何ごとか・何ものか②どうして・なぜ③どうして○○だろうか、いや○○ではない

驚く
外的刺激に対してはっとする⇒①(出来事にであったとき)はっと気づく②(寝ているとき)はっと目覚める③びっくりする


①(「な○○そ」の形で)(どうか)○○してくれるな・(どうか)○○しないでほしい②○○な・するな・(し)てくれるな

なでふ
①どんな・どのような②どれほどの(○○か、いや、○○ない)・どういう(○○だろうか、いや、○○ではない)③どうして④どうして(○○か、いや、○○ない)・なんだって

わざ
①おこない・しわざ②ありさま・ことの次第・こと③仕事・勤め④仏事・法要・法会⑤方法・手段・技術・技芸⑥災い・たたり・害

なむ
①○○てしまうだろう・きっと○○であろう②○○てしまおう・きっと○○よう③○○てしまいたい④○○のがよい・○○べきだ⑤○○ことができるだろう⑥○○たらどうだ・○○てくれないか⑦○○としたら

臥す
(人が)①横になる・床につく・寝る②うつぶす・うつむく・ひれふす・倒れ伏す③(からだを低くして)かくれる・ひそむ・ひっそりと住む・かくれ住む
(人・ものを)④横にさせる・寝かせる⑤顔などを下に向かせる・うつむかせる⑥押さえつける・押し倒す⑦かくす・ひそませる

あな
ああ・あれ・まあ

いとほし
見ていてつらい⇒①(弱者に対して)気の毒だ・かわいそうだ②(弱者に対して)いじらしい・かわいい・いとしい

かひ
①効果・ききめ②価値・値うち

 

平安文化のあれこれ

おちくぼ姫はお琴がお好きなようですけれど、それはお琴そのものというよりも、お琴を教えてくれたお母さんが大好きで、つまり大好きなお母さんが教えてくれたお琴だから好きなのではないでしょうか。だから寝床にまで持ち込んで、いわばおちくぼ姫はお琴をそばに置いているのではなくて、きっとお琴のあるところにいてくれるはずだと姫が思っているお母さんと一緒に横になっている、寝ているのではないでしょうか。横になってお琴をなんとなく触っているというのは、おちくぼ姫にはお母さんに甘えているというか、お母さんとたわむれている、お母さんとスキンシップしながら楽しい時間を過ごしている、そういう感覚だったりしないでしょうか。だから寝ないんじゃあないでしょうか。寝てしまうと夢にお母さんが出てこない限り、姫はお母さんとの時間を過ごせなくなるのではないでしょうか。姫にはお母さんが恋しいばっかりなんじゃあないでしょうか。切ないですねえ。そうやって姫がひたすらお母さんを恋しく思っているところに、ちんにゅう者の乱入じゃあないでしょうか。怖かったでしょうねえ。前もって伝えたりなんかすれば絶対断られるに決まってるでしょうから、だから右近の少将は実力行使という手段に出たのでしょうけれど、でも、それで、姫の心を開き動かすことができるんでしょうか。危険な賭けに出たということでしょうか。ただ、現代なら、やっぱり、警察沙汰じゃあないでしょうか。平安流というのは乱暴ですねえ。男子には手っ取り早かったのでしょうけれど、女子はたまったもんじゃあないんじゃないでしょうか。これで姫はシンデレラになれるんでしょうか、本当に。なんだか野蛮にも思えてきませんか。淑女ではあるけれど、紳士ではないような。もしかしたら、平安時代というのは、淑女と野獣の社会だったのでしょうか。そういう土壌から藤原道長のような野蛮人が生まれたのでしょうか。あこきも男性不信になったりしませんかね。こんな夫信用できるか、ということで、職業婦人の道を究めるとか(わかりませんけど)。平安時代の男性にとって、妻とはいくらでも他に取り替えのきくものだったのでしょうか。だから、帯刀みたいな裏切りも平気でできたのでしょうか。裏切りと不信があふれた社会――それが平安時代なんでしょうか。

 

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Ochikubo-Hime (Princess Ochikubo)

Princess Ochikubo lied down, not asleep, fingering the Japanese harp close to her, and murmured, without being aware of the hiding intruder, that I could not endure everything and so I should seclude myself like a hermit in the depths of a rocky mountain where people said anyone can forget everything. Seeing that the Princess was unlikely to sleep soon, Ukon’no Shoushou, judging that no one would notice him, opened the lattice door, deftly using a piece of wood, and entered the Princess’ room. The uninvited raider got the frightened Princess up and caught her. Akoki lying with her husband in the room next to the Princess’ place noticed the sound of the lattice door opened and immediately tried to go and see what was happening, but Tachiwaki halted it and Akoki, in shock, was unable to move. “Oh, no! I got to go. You also heard, didn’t you? It was the lattice door of my Princess. I must go now," said Akoki. “Dog or something? Maybe rat?" Tachiwaki lightly dodged and told her not to make a fuss. “Oh! You know what was happeneing because you did it, didn’t you?" Akoki severely accused him, suspicious of his ill intent. “What are you talking about? You sleep with me," said Tachiwaki, evading her anger, and firmly held her in his arms. “Oh, God! How so shameful! You bastard!" All Akoki could do was only to curse him. Against her will to rush to her precious Princess in trouble, Akoki could do nothing, held down by force under the control of the enemy whom she, full of hatred, even wanted to kill.
In the Princess’ room Ukon’no Shoushou lied down, making himself at home, holding the Princess, who was all scared and about to collapse, shivering and wailing. “My princess, you grieved much and so I will give you my sincere, true love and I will find you a rocky mountain which has the depths of your want." Oh, this man should be that…. The Princess knew who the man was; it was Ukon’no Shoushou who sent letters one after another to her. At the same time, her worry about her clothes exceeded the horror and other feelings. Ah, these clothes of mine should be surely miserable. Now what could I do with these threadbare and frayed edges? Oh, my goodness! I want to disappear… only I want to… I should vanish like a bubble… my worthless, empty life…. The Princess cried and cried as if this was the end of her life. Ukon’no Shoushou who, assuming her Prince, had been sure of his success in an affair with the Princess was at a loss what to do with her, quietly waiting and seeing.


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