Ochikubo-9
このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。
取り上げる作品は、『落窪物語』です。
西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。
小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。
ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。
(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)
このサイトで主に使用する辞書・書籍
『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)
『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)
『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)
『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)
なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。
(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt)
まず今回のあらすじを紹介いたします。
その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。
今回のあらすじ
おちくぼ姫の父上様は北の方のもとに戻り、「落窪の様子を見てきたら、たいそう困っているようだ。着物一枚しか身に着けていなかった。子どものお古があるだろう。やってくれ。日が落ちたらどれほど冷えるか」とおっしゃると、「もうあげてます。お捨てにでもなってらっしゃるのか、着古すまでおめしにならないのです」と北の方が応じると、「なんと、情けない。幼くして母をなくし、あるべきようを知らぬのであろうな」と答えられました。
三の君の婿で蔵人の少将が召される正装用のはかまに使う衣を北の方がおちくぼ姫に仕立てさせようとまわさせ、「平装のよりも見事な仕立てにするのだよ。そうすれば特にほうびにころもを取らせてやらないこともないからね」との継母の言葉に姫様は素直に喜ばれ、大急ぎで美しく縫い仕上げられました。その出来ばえに北の方も不服を唱えず、自分のお古をくれてやると、姫様はその綿入り衣のおかげでこがらしをしのげそうだわ、ああ、ありがたいと安どされました。北の方のしうちを思えば恨みに思ってもよさそうなものなのに、姫様はそこまでおいつめられていらっしゃるのです。
蔵人の少将というお方は、気に入らなければガミガミとうるさく責め立て、ほめるとなったら大げさにほめまくる気性でいらして、「この仕立ては素晴らしいね。たくみの技ではないか」とおちくぼ姫のお仕立てによる袴をことさらに持ち上げるので、近しく仕える上級の女房たちが北の方にそのことを伝えると、「だまらっしゃい。落窪が知ったらどうなる。思い上がるに決まってるだろ。あんなのには負け犬が上等だ。その方が本人のためになり、人にも相手にしてやろうかとも思ってもらえるだろ」とあまりのおっしゃりように、「そこまで言わなくても。お気の毒な姫様」とひそかにかたを持つ女房もいました。
[今回の古語]
ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。
「大急ぎで美しく縫い仕上げられました。その出来ばえに北の方も不服を唱えず、自分のお古をくれてやると、姫様はこの綿入り衣のおかげでこがらしをしのげそうだわ、ああ、ありがたいと安どされました。北の方のしうちを思えば恨みに思ってもよさそうなものなのに、姫様はそこまでおいつめられていらっしゃるのです。」という箇所の古語を取り上げます。
「いと疾く清げに縫ひ出でたまへれば、北の方、よしと思ひて、おのが着たる綾の張綿の萎えたるを着せさせたまへば、風はただはやになるままに、いかにせましと思ふに、すこしうれしと思ふぞ、心ちの屈し過ぎたるにや。」
(おちくぼ姫が)
いと疾く清げに縫ひ出でたまへれば
たいそう早く整っていて美しい様に縫い上げなさったので
風はただはやになるままに
風がむやみに早い状態に変化するのに伴って
「ままに」=(時間的な経過)につれて
いかにせましと思ふに
どうしたものかしらと思い悩んでいたので
「せまし」=せ+まし=することを+(どう)しようかしら(と迷う)
すこしうれしと思ふぞ
ちょっとありがたいと思うのである
「ぞ」=〜である/〜よ
心ちの屈し過ぎたるにや
気持ちが負けすぎているのであろうか
「にや」=〜であろうか
「たる」=〜している
本当は北の方の執拗ないじめが間違っているのに、いじめられている状態が通常になってしまって、いつもいじめられ、しいたげられているのが当たり前になり、たまに物をもらえたり優しくされると、それがありがたいと喜んでしまう心境のことを、感覚が麻痺しておかしくなっているのではないかと言っているのでしょうか。
平安文化のあれこれ
平安時代の結婚は、嫁の実家が婿の面倒をすべて見るのがよくある形だったのでしょうか。蔵人の少将というのは三の君の母親(つまり北の方)がおちくぼ姫に作らせた袴を(それも正装用を)もらえて当たり前といった感じで着ているようではないでしょうか。右近の少将のように実家がお金持ちの場合はその必要がなかったのでしょうが、平安時代というのは何かと若い男子に有利というか都合の良い習わしになっていたようにも思われないでしょうか。お金がなくても将来性があって、なおかつお金持ちの家のお父さんに気に入られさえすれば、その家の娘と結婚できて、そしたら家も服も(たぶんきっと食事も)全部用意してもらえて、上げ膳据え膳状態だったようではないでしょうか。しかも通い婚なので、気分次第で行かない選択もいくらでもできたでしょうし(ただし、その場合は結婚自体が自然消滅という恐れもあったのでしょうか。)、生活の面倒を見てくれる婚家があった上で、その婚家にはわからずに別に通う他の女を持つこともできたでしょうし(ただし、噂が怖かったかもしれないのでしょうか。)、自由度が高いというか、その男性の良心とか良識とか品性とか人格とか、そうしたもの次第でいくらでもやりたい放題だったのでしょうか。当人の倫理道徳感とか価値観がわかりやすかったかもしれませんね。藤原道長の暴走ぶりは、そうした社会のあり方も反映したものだったのでしょうか。なんでもありの自由だろ、というのが行き過ぎるとああなるとかだったのでしょうか。息子の頼通は父親を反面教師にしていたようにも思われるので、やっぱりその人次第でしょうか。憎まれっ子世にはばかるということわざは、もしかしたら平安時代に生まれたのでしょうか。
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Back to the mistress, Father of the Princess said to her, “I looked in at Ochikubo, who appeared to be pressed for necessary daily clothes. She had only one item of clothing on her. You should have worn dresses of your daughters. Would you send them to her? How cold it is in the evening these days!" His wife, resentful, protested, saying “I’ve already had her them. She has not used them until they are worn out. I wonder what she has done with them. Throwing away or what?" Not doubting, Father said, “Oh, what a pitiful adsurdity! As she lost her mother at a young age, probably she failed to get discipline and manners required of a noblewoman."
The cloth for fomal dress for men called hakama to be used by Kuroudono Shoushou, the husband of San’nokimi, Kitanokata made delivered to Princess Ochikubo for sewing without any notice, ordering “You must make it more beautifully than usual and you may have an item to wear as special treatment," with which the Princess was pleased innocently and tailored it with an elegant finish in haste. The marvelous work satisfied even Kitanokata, who gave one of her threadbare clothes to the Princess. Considering the abuse of her stepmother, it is no wonder that Princess has a grudge against the stepmother; nevertheless the Princess Ochikubo felt relieved that with this puddled garment she should protect herself from cold winter wind, even grateful. So far the Princess has been driven into a corner.
Kuroudono Shoushou has a disposition to persistently snap at anything that he is not satisfied with and excessively lavish praise on things that he favors. Of the garment which Princess Ochikubo sewed, he applauded in exaggeration, saying “What a great tailoring! The master’s art!" High-ranking maids serving close to him told his words to Kitanokata, who said, “Shut you up! If Ochikubo hears of it, how does she think? She should certainly become full of conceit. Such an orpahn should be treated as a loser. That would be for the good of Ochikubo herself. Everyone would be kind to such a loser." In response to this awful way of saying, some maids took the side of Princess Ochikubo behind the back of Kitanokata, criticizing her, “How so mean! What a tragic princess!"
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