Ochikubo-27
このサイトは、日本で千年余り前に書かれた物語を読んでみようという試みです。
取り上げる作品は、『落窪物語』です。
西洋では17(19)世紀に書かれた『シンデレラ』の日本の古典版といえるものです。
小さいお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、老若男女を問わず、皆様にお楽しみいただけるお話ではないかと思います。
ぜひご家族で、一人でも多くの方に一緒に読んでいただけましたら何よりです。
(なお、このサイトの著作者は古文になじみがありません。現代の日本語で読み、考え、さらに英文で表現するという難題に挑戦したいと思います。また、このコンテンツはあくまでもこのサイトの著作者の解釈に基づくものであることをご承知おきください。)
このサイトで主に使用する辞書・書籍
『落窪物語』(稲賀敬二)(新潮社 2017)
『全訳読解古語辞典(第五版)』(小型版)(鈴木一雄 小池清治 倉田実 石埜敬子 森野崇 髙山善行)(三省堂 2021)
『ルミナス和英辞典(第2版)』(小島義郎 竹林滋 中尾啓介 増田秀夫)(研究社 2006)
『ニュースクール英和辞典(第二版)』(廣瀬和清 伊部哲)(研究社 2019)
なお、下記のサイトで、原文の全文を見つけました。
(https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/txt_ochikubomonogatari.txt)
まず今回のあらすじを紹介いたします。
その後ピックアップした古語の意味合いを考え、平安時代の社会や文化のあり方などいろいろ考えてみたいと思います。
今回のあらすじ
おちくぼ姫は右近の少将が帰ろうとしないのでいたたまれず、ただじっと横になっていました。一方あこきは姫様のために少将をもてなす準備もでき、姫様の夫となる方を迎えるにふさわしい身支度を整え、姫様の部屋へと向かいました。その姿はたいそう美しく、夫の帯刀もみとれるほどでした。「姫様は御格子をお下げしたままになさりたいのかしら」とあこきが気をきかせて外でつぶやくと、慕わしく思う姫の姿を見たい右近の少将は、「明るい方がいいわ、と仰っている」と応じてあこきに格子を上げさせました。体を起こした少将は帰り支度を始め、牛車をと命じ、門まで出ようと立ち上がられたところへ、正装したあこきが少将に召し上がっていただくおかゆを持ってきました。顔を洗う水まで立派な容器に入れて差し出します。あれ、どうしたんだろう、不自由しているという話だったけどなあ、と少将が驚いていると、その横でおちくぼ姫は、まあ、どうしたのかしら、どこからこれだけのものを、と狐につままれたようにポカンとされています。
雨も弱まり、人に見られる心配もなさそうなので、右近の少将はおもむろに、さりげなく姫の方を見て、部屋から出ようとしました。陽の光に照らされた姫君は、まさしく光り輝いてらっしゃり、これほどお美しいお方とは、とますますこの上なく愛おしさが募り、ああ、離れがたい、このままずっとご一緒に、いや、是が非でも、と心ひそかに誓われるのでした。少将はあこきの思いを受けとめ、おかゆにも口をつけてから、やっとお帰りになりました。
さて、今夜も右近の少将が姫様のもとに来られれば、正式に夫婦となります。そのための儀式に、またいろいろと物入りで、あこきは頭を悩ませました。何より夫婦となった証としていただくお祝いのお餅をなんとしても用意しなければなりません。いったいどうしたものかしら、と考えあぐねたあこきは結局、また和泉の国のおばを頼ることにしました。
[今回の古語]
ピックアップした古語の意味合いを考えてみたいと思います。
「「姫様は御格子をお下げしたままになさりたいのかしら」とあこきが気をきかせて外でつぶやくと、慕わしく思う姫の姿を見たい右近の少将は、「明るい方がいいわ、と仰っている」と応じてあこきに格子を上げさせました。」という箇所の古語を取り上げます。
「「この御格子は参らでやあらむずる」と、ひとりごとして参るを、少将の君もゆかしうて、「『いと暗し。上げよ』と宣ふめり」と宣へば、物踏み立てて上げつ。」
で
○○ないで・○○ずに
むず(←むずる)
①きっと○○だろう②○○う・○○よう・かならず○○つもりだ③○○べきだ・○○のがよい④○○ような
ゆかし
興味や関心がひかれる⇒①見たい・聞きたい・知りたい②恋しい・なつかしい・慕わしい
暗し
①暗い②知力が不足している・愚かである・精通していない③悟っていない・迷いがある④じゅうぶんではない・とぼしい
上ぐ(←上げ)
①下から上のほうに移す・高くする②髪を結い上げる・髪上げをする③事をしとげる・しおえる④(地方から)都へ行かせる・上洛させる⑤見えるようにする・明らかにする
めり
①○○ようにみえる・○○ようだ②○○ようだ
踏む(←踏み)
①足で押さえる・踏みつける②歩く・行く③その地位につく・位にのぼる④調子をとって足ぶみをする・舞う⑤過ごす・経験する⑥値打ちの見当をつける・値踏みをする
あこきと右近の少将のやりとりのようです。互いに無粋なことはできないと、スマートに流れを作っていこうとしているといった感じでしょうか。まったく心に余裕もないだろうし、そういうコミュニケーションの技みたいなのも知らないだろうなというおちくぼ姫はあてにせず(というより、姫様にご負担はおかけせず、でしょうか。)、あこきが(そして右近の少将も)、姫様のお幸せな結婚を成立させていこう、という強い意志がここでも感じられるでしょうか。
平安文化のあれこれ
あこきが右近の少将の前に出るときの正装というのは、どうも十二単衣(じゅうにひとえ)のようです。本当に十二枚も着物を重ねて着ていたのかどうかわかりませんが、着物の裾とか襟、袖口の部分で重ねて着た異なる色味が見えるのを楽しむものだったのでしょうか。季節に応じてある程度決まった色目の組み合わせというものもあったようです。高貴な方々のコミュニケーションに、目で味わえる美しい彩りを添えたようなものでしょうか。雅(みやび)な世界を象徴するようなものかもしれません。
十二単衣に加えて、長い髪というのも平安時代の貴族社会で女性を象徴するもののようです。長ければ長いほどよいとされていたのか、美しい女性を表すのに、現代のウェディングドレスで裾を引くように、十二単衣でも着物の裾と一緒に髪も長く後ろに引いているのがどうやら最高の褒め言葉だったのでしょうか。本当にそれほど髪が長かったのかどうかはわかりませんが、平安時代の絵に描かれている女性は、子どもや尼になった女性を除いて、ほぼすべて背丈よりも長く髪がたなびいているようです。十二単衣と髪(の長さ)のバランスというのもあったのでしょうか(長く裾を引く十二単衣には長く尾を引く髪がふさわしいということでしょうか)。
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